014 隷属

「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」というところの消える職業65%は、人工知能やロボットが取って代わるという意味でしょう。誰がやっても同じという仕事は、まっさきに取って代わられそうです。時間給、日給、月給で報酬を受け取る仕事のかなりの部分は、自分の時間を切り売りしているだけなので、基本、自分にしかできない仕事ではなく、他人がやってもいいという仕事でしょう。そのような仕事が人工知能やロボットにとられないという予測は無理があります。

なにしろ、驚異的な進化をとげるテクノロジーです。マニュアル化できる仕事、ノウハウ化できる仕事は、人工知能にできないはずがありません。人工知能は今でもすでに、将棋のプロに勝つレベルに達しています。これからさらにむちゃくちゃな進化を遂げれば、65%どころか、そうとうな仕事がなくなるでしょう。火を見るより明らかです。

というような話は、あちこちでよく見かけるようになりました。でも、どうすればいいかという話はなかなか聞かれません。

ところで、私はそこそこ年齢が上がってから、というか、最近になってよく感じるのですが、人類は、根本的に隷属したがる存在ではないのだろうか、と。

自分の人生を歩むことを恐れ、拒む人が、あまりに多いです。組織に、国家に、地域に、宗教に、自分以外の何かに、人生を委ねようとする。私もそうやって生きてきたし、疑問をもたずに長いこと来ました。会社員も、ニートも、フリーターも、経験しました。今は、個人事業主です。個人事業主だから自立しているかというとそうでもありません。

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自立とは、誰にも頼らないことではないと思います。自分の人生を自分で生きることであって、他の人たちと協力し合ったり、組織で自分の役目を果たしたりすることも、自立の一環です。要は、自分の人生に自分が責任を持ち、自分で選択し、自分で生きること。

2030年ごろのエクサスケール、2045年ごろのシンギュラリティに向けて、現在のように、多くの人々が隷属したがるようだと、おそろしい世の中になりそうに思います。人工知能が極度に進化し、人工知能への依存が高まり、人工知能と一体化するのであれば、現在のままいくと、人工知能に隷属することになるか、人工知能をコントロールする立場にある「誰か」に隷属することになりそうです。それも、過去の隷属とはまるで違い、自分の存在のすべてを隷属させる。それはつまり、人間が家畜そのもの、奴隷そのものになりかねません。

ここのところを最大の問題と考える人をあまり見かけませんが、人類最大の危機です。

『エクサスケール』にはこう書かれています。
「個々人が独創性を最大限に発揮し、多様な個性と感性を追い求める結果、他の人たちの安全と平和と平穏で温かい暮らしを脅かさず、社会の平等と公平と公正に悪い影響を及ぼさないかぎり、70億人超の全人類の多様性は、極限まで追求することが許される。そこには驚くほどに数多くの天才、奇才、異才といった才能が出現することになるだろう」

素晴らしい世の中です。

が、自分がその構成員となると想像して、ほとんどの人は、尻込みするのではないでしょうか。「自分には独創なんてむり」「そんなものより安定の方がいい」
そしてまた、人類は善人も悪人もいます。極悪人もその能力を得ることになります。
多くの人は、管理されることを望み、今日と同じ明日が来ることを望みます。歴史上、よほどひどい権力者であっても、多くの人は、支配されることを望みます。悪い権力者を倒すときには、支配されないことをのぞむのではなく、支配者の交替を望むのです。

聖人のような支配者などあるわけがなく、少々ひどい支配者であっても、民衆はがまんします。自立するよりマシだと思います。

自立しても、リーダーのもと、社会の一員として生きていくことに変わりはありません。それは、支配を受け入れるのではなく、自ら責任を持って社会に参画していくはずです。自分の利益と社会、あるいは世界の利益を一致させることが自立の要件でしょう。

支配されれば、社会のことなどさして気にする必要はなく、自分の利益を中心に考えていればいいです。それでも、支配されることで、どうにかこうにか社会と折り合いがついていきます。

ところがこれは、人工知能に対しては、非常にマズイ。人工知能に隷属すれば、人間としての尊厳を失うことになります。生きていたとしても、人間でなくなります。そのまえに、隷属タイプの仕事は、65%のうちにあり、まもなく消えていくでしょう。人間としての尊厳を失うより先に、仕事を失うでしょう。

支配されたがる大多数の人々が、「今は存在しない仕事」に就くことになるのです。現時点で、すでにその渦中に巻き込まれつつある人々が出ています。不景気が原因ではありません。社会構造の転換が原因であり、それはシンギュラリティへの道のりなのです。小手先の対応でどうにかなるはずがありません。

「いい大学へ入り、いい会社へ就職する」という道は、間もなく消失するでしょう。だって、そんな道は、人工知能でも可能だからです。
 

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